プリンの楽しみ自分流

漆の匙で味わう

 今年の春も岡山市内の商店街にある飲食店で「おいしい漆のスプーン展」が開かれました。漆で仕上げた木製スプーンでカレーなどが食べられるというものです。漆は、酸やアルカリ・アルコールにも侵されず何にも溶けない特性があり、耐水性や耐熱性に大変優れ、防腐性は抜群です。深く落ち着きのある温かい光沢の美しさは、漆を英語でジャパンと言われるように日本を代表する美しさでもあります。
 我が家で最後に漆塗りの食器で食事をしたのは凡そ40年前の祖母の49日の法事でした。寛政の頃(1790年代)にしつらえたと書かれた木箱を開けると、伊万里焼の皿などと一緒にしっとりと黒い汁碗が姿を現しました。食事も終わりに近づき茶碗蒸しが出たのですが、匙がなく不器用な私は四苦八苦しながら箸で食べたことを今も思い出します。卵好きの日本人の定番メニュー茶碗蒸しはつい最近まで多くの人が箸で食べていたようです。むしろそのほうが作法にかなっていました。茶碗蒸しは箸でぐじゃぐじゃにしてすすって食べてもかまわなかったのです。  カトラリーを表す日本語は箸、匙は含まれません。平安時代まで庶民は手づかみで食事をしていましたが、箸は空海が唐から仏教と一緒に持ち帰り伝えました。空海は教えの中で「箸を使う者、全て救われん」と説いて、お箸を使えば死後救済してくれるとし、箸を使うことを広めたそうです。そのため中国や韓国では今も箸と匙を両方使っているのに、日本だけは匙を使うのをやめてしまったそうです。
 匙の再登場は戦後、カレーの登場を待たなければなりません。カレー用の金属製スプーンの普及とプラスチックの出現で食卓は一色に、その呼称もスプーンにとってかわられています。1300年の昔は仏教によって「匙」は日本から追い出され、近年は外来語によって「匙」という言葉が日本語から追い出されてしいました。
 ところで昨今、その温もりが見直され木のカトラリー・食器ブームが起きつつあります。平安の昔から木の箸やお椀やしゃもじ、杓子を使っていた文化の国ですから、木のカトラリーや食器を手にとることは、考えてみれば自然なことではないでしょうか。
 木製でもいいのですが、できるなら漆の匙でプリンを掬ってみてください。温かく、するっとした舌ざわりがプリンをもっとおいしくしてくれること間違いなしです。

【オハヨー焼プリンの唄】
※音が鳴りますのでご注意ください。